開発経済学とその他応用分野を学ぶ院生

人間万事塞翁が馬を大切にしている応用経済学徒. 2020年4月から開発・計量・プログラミング関連の記事を書きます.

エコノメをかじり出した文系学生が計量・統計のテキストを読み進めていく順番

【2020年1月1日追記】昨年12月14日にこの記事がTwitterでプチバズりしていて、そのお陰でその日は1600PVを記録していました。少し古い記事でもあるため、記事をアップデートさせていただきます。
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このブログは学部生の人によく読んで貰っているみたいなので、今回は学部生の人のためになりそうな記事を書きます。
 
タイトルの通り、計量経済学の勉強を始めた文系学生がどの順番でテキストに取り掛かるべきか、私の独断と偏見でオススメを紹介します。また、近年は経済学部に限らず計量経済学の手法を使う分野も増えていると思いますので、大学院生の方にも参考になるかと思います。また、筆者はミクロデータを使う開発経済学を専門分野としていますので、マクロ・時系列の方にはあまり参考にならないかもしれません。初めに個人的な結論を述べますが、Mostly Harmless実証分析入門の2冊を抑えることができれば十分だと思います。この2冊の説明はこの記事の後半で出てきます。
ミクロ・マクロ経済学のテキストをまとめている記事はこちらです。  

 

初級よりも初級・何も分からないレベル

大学生だが数1や数Aすら危ういという方に向けて。学部レベル(と一口に言っても人によるが)の計量経済学を理解するには、2年ほどあれば数学大っ嫌いな人でも間に合うと思います。
 
まずは一般書から読み始めるのがいいでしょう。

中室・津川先生の「原因と結果」の経済学週刊ダイヤモンド2017「ベスト経済書」第1位 となった2017年のベストセラーで、 伊藤先生のデータ分析の力サントリー学芸賞[政治・経済部門]、日経・図書文化賞受賞週刊ダイヤモンド「2017年ベスト経済書」2位 となった本です。
詳細・書評はAmazonの商品説明やレビューに任せますが、どちらも数式を読まずにどのような分析が経済学・社会科学の研究で行われているのかとても分かりやすく説明されています。まずはどちらか1冊読むところから始めるといいかもしれません。
 

明治大学の飯田先生の経済学講義 は計量も含め、ミクロ・マクロを初学者が学ぶにあたって必要な基礎知識をざっくりと説明しています。経済学全般を勉強したい人はこの親書が1冊目でもいいかもしれません。
 

統計学のイメージが掴めなかった私はこの辺も図書館で借りて読んでましたが、直感的に説明されていて数時間で読み切ることができるので、漫画から入るのが嫌でない人はサッと読んでみるのもありかと思います。
 

初級レベル

高校数学の基礎が問題ない人、時間が無いはここから始めていいと思います。

田中先生の計量経済学の第一歩(左) はまさに計量経済学の入門に最適な教科書だと思います。大抵のエコノメのテキストではそうですが、序盤で超最低限必要な統計の復習があります。当然これが十分でないと思いますが、この教科書でも計量経済学(特に回帰分析)の理解に必要な最低限の統計学の復讐がざっとされています。なので、計量経済学を勉強するために、統計学の教科書から勉強し直す必要はないかと思います。有斐閣のこのシリーズは良書が多いですよね。私も学部のときに読みました。
実証分析のための計量経済学 も同じく初級レベルと言った感じでしょうか。数式による説明が少なく、実証分析、特に結果の解釈をするための(直感的な)説明にフォーカスされています。この記事を書くにあたって読み返したところ、抽象的で厳密性に欠けるなぁと思いましたが(少し勉強して偉そうになっている)、学部のときにある辞書的に活用していましたが当時はとても助けられました(大学院入学後も確認としてサクッと何度か目を通りしている)。特に離散選択モデル、プロビットやロジットなどのパートにお世話になった記憶が。
 
統計学の入門テキストとしては、先に紹介した漫画本に加えて以下がいいと思います。

基本統計学(東洋経済新報社) は文系の統計学初心者が使う本として1番だと個人的に思っています。自分が初心者だと自覚がある人はこれから始めることをお勧めします。 かなりのロングセラーである基本統計学(有斐閣) も同じ難易度であるためお勧めです(好みの問題)。ちなみに私は 基本統計学(東洋経済新報社) を愛用していました。
 
「最強」とつくタイトルの本は怪しい匂いがしますが、このシリーズは超がつく統計の良書なので是非読むことをお勧めします。

これは統計学が最強の学問である[数学編]であり、統計的理解・頭脳を鍛えるのに最適な読み物だと思います。これを1周とは言わずに何周も読むのも(時間があるなら)いいトレーニングになると思います。
一応数学編以外もあって、読み物として面白いので載せておきます。ビジネス本もあるので、就職・就活するのに「ビジネスの統計ってどんなのか知ってますよ」という上部の知識を付けてESを書いたり面接に挑むのもいいかもしれません?

 
 
統計・確率などの読み物として面白かったのはこの辺です。左から読み易かった順に並べてます(ページ数と内容的に)。

 

中級〜上級レベル

THE中級がどのくらいか分からないので範囲を広くしました。

大学院の初級レベルとしても定番な2冊です。
どちらも同じくらいのページ数と難易度ですが、Stock & Watsonの方がWooldridge本より内容が良い&分かりやすい気がします。和書に比べ説明がダラダラしている感じがあるが、数学苦手が多い文系にはこのくらいがちょうどいいと思います。
右はStock & Watson和訳本です。英語が読めない方はこれを、と言いたいが高すぎます...。英語を読めるようになりましょう。ここまでやる人の多くは院進すると思いますし。
 
統計学のテキストでは、基本統計学に比べ少し難易度が上がるのが以下のシリーズです。

個人的に経済系の人がやるべき本を左から並べました。この中では赤本だけやってれば十分だと思いますが(自分がそれ)。
 
数理統計・確率を勉強するときに使ったのが次の2冊です。経済学では触らない部分も多いですが、数理統計などは学部のうちにしっかりやっておけばよかったと後悔しています。

 
和書でガッと勉強するのが多くの純日本人には手っ取り早いでしょう。

左上から順にコメント。
末石先生の計量は漸近理論とか収束とか、その辺の説明が日本語のテキストの中でもかなり充実しているものだと思います。この本と難波先生の計量の2冊とも読めればいいと思いますが、まずはどちらか1つを終わらすのもいいかもです。難波先生の計量本の後ろ半分くらいは数理統計のパートとなっており、行列・線形代数を使った統計学計量経済学を勉強する上で必要となる基礎をまとめて勉強できるのでかなりオススメです。
浅野・中村は学部4回のときに結構勉強したのだが、個人的には好みではありませんでした。武隈ミクロのような感じを受けたためです(無味乾燥...)。あと、それなりに広い範囲をカバーしているのですが、ページ数が十分でないため、どれも中途半端な気がしました。
山本計量は院試対策の定番テキストとなっている(なっていた?)みたいです。私はハードカバーが苦手です。それだけの理由で読んでいませんが、かなり定番の本です。学部授業の指定教科書となっていることも多いかもしれません。
【2020年1月1日追記】昨年発売され少し感動したのが最後の2冊です。計量経済学のための数学は、タイトルの通りです。線形代数や解析って、理系学部生向けのテキストの全てをやる必要はないと思うんですよね(特に応用計量を専門とする人は)。大学院生や学部後半になると、だらだら何でも勉強できる時間の余裕も減ってきますよね。「経済数学」はあっても「計量数学」の和書はなかったため(あったらすいません)、この本がその貴重や役割を果たしてくれます。計量経済学 (New Liberal Arts Selection)は同じく昨年発売され、おそらく和書の中で一番ボリュームがあり、かつカバーしている範囲の広さと深さが評価されているように思います。個人的には、「第II部 ミクロ編」はかなり読み応えがあります。また、付録の数学補習も充実しています。どちらも学部生の時に読みたい本でした号泣。  
この辺のレベルの読み物としてはAngrist&Pischkeの「ほとんど無害」な計量経済学Mostly Harmless Econometricsがあります。特にミクロ計量やる人はmust readです。

和訳がイマイチだという評価がありますが、日本語の方が早く読めるので私は和訳本を持ってます。しかし和訳版はお高いのが少々ネック。英語に自身がある、ついでに英語の練習をするという人は安い英語版を買うのがいいかもしれません。

同じくAngristとPischkeによるMastering 'Metrics: The Path from Cause to EffectもMostly Harmlessと同じく必読な気がします。
 

実証分析入門はざっくり言うとMostly Harmlessを簡潔にした感じです。Mostly Harmlessから数学的な説明を抜きにして、実証論文の例を省いた(ゼロではない)感じとも言えるでしょうか。上の2冊と比べると読みやすく、特にMostly Harmlessで分からないところを補完する役割としてこの本が最適な印象です。冒頭でも述べましたが、Mostly Harmless実証分析入門の2冊を抑えることができれば十分だと思います。

これが理解できたら十分:上級レベル

この辺は学部の上級クラス(院と同じ授業)で使っている大学もあるので書いておきます。
院進する方は時間がある限り読んだり演習問題を解くのが吉だと思います。院進しない人はよっぽど強い関心がない限り触れないことを勧めます(いやそんなことはない)。

この辺が定番でしょう。
この中でも圧倒的なページ数を誇るGreeneが定番としてあるようです。 Hayashiも丁寧な説明などで定評があります。 WooldridgeのCross Section and Panel Dataの2章か3章にある色々な収束の定理の証明・説明はなかなかなものだと思います。収束がよく分からなければこいつを読んでみると良いかもしれません。自分は大数の法則中心極限定理からの連続写像定理(continuous mapping theorem)、Slutskyの定理、Delta法なんかを参考にしてました。
ミクロ計量で定評があるのがCameron&Triverdiです。 Cameron&TriverdiのStata本は実証をやるecon族は度々お世話になる本です(Stata使うならば)。図書館で借りる程度で十分だと思いますが、私は買っちゃいました。

まあ色々書きましたが、私ががっつり使ったのはBruce Hansenのオンラインテキストです。 無料でダウンロードできて、Stata、R、Matlabのコードも載っています。授業のテキストがこれであったのもあり、該当の章を印刷して読み込んだりなんなりしてました。さらっと見るならiPadで読むのもいいかもですね。

このレベルになると根拠のある説明ができないんですが、Bruce HansenHayashiGreeneをやるのが良いのかなと。Greeneは辞書的扱いがいいのかなと思います。
 
ミクロ・マクロ経済学のテキストをまとめている記事はこちらです。 https://www.econ-stat-grad.com/entry/econ/micro/macro/bookswww.econ-stat-grad.com